第二話 〜少しずつ分かっていく真実と色〜




私の世界は白と黒。

オセロのように黒になったり白になったり。

ずっと変わることなく続いていった。

変えようとも思わなかった。

変えたいとも思わなかった。

今の状況がいいなんて思えないし、思わない。

でも、私一人の力じゃ変えられない。

そんなことをコタツの中でミカンを食べながらもくもくと考えてた。

今日は、ずる休み。

まぁ、いまさら始まったことではないので何も思わない。

先生だって家に来たことは一度もないから・・・。

 ピーンポーン

玄関のチャイムが鳴った。

出ようか出まいか考えたけど、すぐに伺った。

「はい・・・げっ!」

澄ました声で出迎えて、出てきた奴は・・・。

「逢沢 総代!何でここにいんの!」

体制を整えた。

空手のように構えもした。

奴は笑うばかり。

「今日ずる休みでしょ?俺、紗夜のことなら何でも分かるんだ。」

「・・・ストーカー?」

一歩引いてドアを閉めかけた。

「違うって!」

褪せたった声してドアを開く。

「何しに来たのよ。」

私は怒ってた。

ずる休みという貴重な時間をつぶされてるからだ。

「これから俺とデートしない?」

不意にナンパ。

「あんたさ〜女好きで有名だよ?今度は私がターゲット?」

あきれた声で腕組んで呟く。

「ん〜別にそういうわけじゃない。俺彼女沢山居るから。」

「なら、その子達と行ってなさいよ。」

「それがさ〜最近あの子達に飽きてきて、今はアンタに興味があるの。」

顔を近づけられた。

・・・なんとも思わない。

「けっ、そんなこといってさ〜アンタ、本気で人を好きになったことないでしょ?」

「そりゃ〜ね。好みの子が居ないから。」

「なら、なんで女で遊んでるの?探せば?」

「・・・さてどうしてでしょう?俺は、一人が嫌いなんだよね。」

「はっ?」

「孤独ってもんが駄目なんだ。」

「なら、サボってないで学校行きな。彼女ちゃんたちが寂しがるよ。」

そういって扉を閉めた。

「あっ待ってよ!今日はサボるって決めたんだ!だから、相手してくれよ〜」

縋られるような甘い声を出して扉を通して聞こえてくる。

私は、年下が苦手なんだ。

「他の子あたりなって、私なんかつまんないよ。殺人鬼って呼ばれてるし。」

「そんなの嘘だろ?アンタみたいな奴が殺せるわけないって。」

はははと笑い声も混じりながらドア越しの奴の声は寂しい。

(今日だけ・・・仕方ないか。)

溜め息と共にすぐさま着替える。

何を着たらいいのかワカラナイ。

そもそも、返事をしないでこんな時間かけて奴は帰ってしまうだろう。

それでも、タンスを開けて服を出す。

結局選んだのは膝までの赤いチェックのスカートと、ベージュのカーディガン。

「センスないな〜」

鏡を見つめて一言。

「・・・って何であんな奴のために服なんか・・・」

不意に恥ずかしくなってこれに決定。

窓も閉めて、火の元チェック。

これで、居なかったらここまでの苦労が水の泡。

(まぁ、どこかに出かければいいか。)

そう思って家から出た。

すると、辺りは静かで誰も居ない。

「まぁ〜そりゃ〜そうでしょう。」

なぜかしょんぼりした声。

「ってなんでガッカリしてんの!」

さっきっから自分で突っ込みっぱなしだ。

「あっ来てくれたんだ!」

階段を下りてたとき、下を見れば奴はいた。

座っていた。

「帰ったのかと思った。」

すると奴は嬉しそうに笑って。

「俺のためにおめかし?可愛いじゃん似合ってるよ」

髪に触れながら言ってくる言葉。

顔がやけに近い。

「バカッ。」

奴の頭を少し弱めで殴る。

ドキドキした。

また、キスされるかと思った。



それから、市内を出てく。

電車に乗ってどこまで行くやら。

奴は、嬉しそうだ。

「アンタさ〜どこ行きたいの?」

立って手すりに使ってる奴に尋ねる。

「知りたい?」

「知りたいから聞いてるの。」

「ん〜まだ秘密。」

「はぁ?場所もいわないで変なところつれてくなよ〜」

あきれた声で溜め息。

あいつは笑ったまま。

「アンタなんでそんなに楽しそうなの?」

「紗夜が居るから♪」

目見つめられて見つめ返す。

「冗談でしょ?はぁ、そうやって何人もの女の子はアンタにほれていくのか。私は絶対に惚れないけどね!」

最後のほうは目標みたい。

でも、恋なんかしないって決めた私にとっては当然のことだった。

「恋なんてもうしないの?」

「なんで?」

「そう思ってるんでよ?」

「なんで?」

「言ったじゃん。なんでも分かるって。」

「どうして?」

さっきっから成り立たない会話をしてる。

私は、私のことを知って欲しくない。

だから、こいつは苦手なんだ。

「恋って、いいもんだよ。」

「なんでそんなことが分かるの?本気で人を好きになったことないくせに。」

「俺に恋してくる女のことにのこと。」

「?」

「告白してくるときは普通の女の子なのに、どんどん綺麗になって女になってくんだ。」

「それは〜そういうものでしょ。」

「それがまた可愛いんだけど・・・好きになれないって言うか・・・。」

「何言ってんの?好きでしょ?女の子。」

「そういう好きじゃなくて恋愛の好き。」

「あ〜なるほどね。」

「そんなわけだから、恋なんてしないなんて思わないほうがいいよ。」

「相手もいないし。ちょうどいいじゃない。」

「恋って、突然来るものだ。恋したいから人を好きになるんじゃなくて、好きになってからが恋なんだ。」

「何、真顔でいってんの?」

「まぁ、そのうち紗夜にも分かるよ。」

微笑んできた顔は今まで見てきた笑顔より寂しく、でもどこか違ってた。

電車が止まった。

「降りよう。」

手を差し伸べられてきたこの手に私は触れることなく立って降りた。

「恥ずかしがらりや!」

そういわれても何も感じなかった。

「でっ?どっち行くの?」

駅のホームできょろきょろしながら辺りを見回す。

手が触れた。

「なっ!」

離そうとしても離れない。

きつく握ってるからだ。

「離してもいいけど・・・場所教えないよ。」

「く〜!意地悪!」

にやけた顔に騙されて、仕方なく抵抗をやめた。

手は繋いだまま、歩く。

私より、3センチほどでかい奴はとても年下には見えなかった。

「ねぇ、なんで始めてあったときキスしたの?」

「なんででしょう?」

「好きでもないくせにキスするんでしょ?」

「ダレのこと?」

「アンタだよ。」

飽きれて何もいえなくなった。

きっと奴には意味なんてないのだろう。

でも・・・。

(ファーストキスだったのに。)

と考える自分はいた。

恋なんてしないと決めたあの日から。

キスも、手を繋ぐのも、抱きつくのも抱かれるのも避けてきた。

恋は突然やってくるって知ってたから。

「さぁ着いたよ。」

行き先は・・・私の母校。

小学校だった。

「わぁ〜懐かしい!」

思わず笑みがこぼれる。

そんな笑顔に総代は見とれてた。

「って!何でしってんのよ!」

さっきの顔から180度変形。

いきなり怒りに変わった。

「だってここ、俺の母校だし・・・。」

「へっ?」

恥ずかしそうに下向きながら、奴は答えた。

「小学校のころから知ってたんだよ。」

「何を?」

「紗夜のこと。」

「・・・うっそ!」

「うそじゃない。」

会話しながら学校に入っていく。

人はダレもいなかった。

「なんで、誰も居ないの?」

急な嫌な予感。

それは、的中した。

「廃校。この学校、明日に取り壊されるんだ。」

何かが、壊れていった。

「うそ?うそでしょ!」

顔を抑えて座り込む。

頭を絞って考えても何も出てこない。

「なんで?なんで?」

枯れていきそうな弱々しい声。

何も、信じられるはずもないのに彼に縋った。

「校長が、生徒たちを・・・殺させたんだ。」

「えっ?」

「悪い学園にして、居心地悪くさせて、自殺にさせて自分は無罪を主張し続けた。」

冷静に言葉を口にする。

「そんなの全然知らない。普通、テレビとかに出るじゃん!」

「それも計算したんだよ!あいつは!あいつは!」

もう手は離れてた。

総代は手を強く握ってこぶしを作ってつめがくい込むくらいまで握った。

やがて、血が流れる。

「うっうわぁあああああぁぁぁん!」

子供みたいに大きな声で鳴いた。

座り込んだまま何も出来ないまま地面を叩きつめる。

手なんて痛くなかった。

心のほうが痛かった。

「泣くなよ。」

彼の声も震えてた。

自分だって泣きそうだった。

でも、堪えてた。

自分は、男だから泣いちゃいけないってずっと溜め込んでた。

「だって、だって!」

ぐしぐしひどい泣き顔。

彼に包まれた。

抱きしめられた。

拒んでいたのに。

避けていたのに。

彼の手を振り解くことが出来なかったのだ。

「ごめん。ごめん。こんなところ連れてこなければよかった。」

ひたすら彼は謝り続けた。

彼は、悪くなかった。

悪いのは、ただ泣くことしか出来ない私だった・・・。



電車の中で二人座ってただ俯くばかり。

涙の後が残ってる。

拭いても消えない後だった。

「今日はごめん。」

電車降りて家まで送ってもらって不意に謝られた。

「ううん。私こそ泣いてごめん。困ったでしょ?」

ほんの少し苦笑い。

つくるしかなかった。

本当に笑えなかった。

「迷惑だなんて思ってないから。」

「へっ?」

「俺の胸で泣いてくれたこと嬉しかったから。」

顔を赤らめて、恥ずかしいことを言う。

「ありがとう。」

彼は帰ろうとした。

私は見つめてた。

「あなたも私がどうして殺人鬼って呼ばれるか知ってるの?」

「知らないよ。」

「知りたいの?」

「知りたくないよ。」

「じゃぁどうして私にかまうの?私と居ると誤解される。もう、誘ったり、しゃべったりしなくていいから。」

「どうしてそんなこと言うの?」

「私のせいで他の人が傷つくのはもう嫌なの。」

「それは、その事件のこと?」

「それも、ある。でも、私、決められた存在だったから。」

「決められた存在?」

「そう。大人しくて、暗い感じで人のものを盗む。そう決め付けられてきた。」

「だから?」

「だから、こんな私のようになっては駄目よ。明るく今のままで私にかまうことなく生きて。」

最後方は祈りだった。

「でも俺、アンタにかまうの辞めないから。」

「なんでよ!」

「俺、アンタに興味が出来たんだよね。」

「はっ!?」

「そういうわけで、これからもよろしく紗夜」

近づいてきた顔は優しい笑顔。

まぶたを閉じた。

唇が重なる。

くちづけだった。





ほんのり色がついてくる私の世界。

でも、私はそれを拒む。

  好きになっちゃいけない。

私と一緒にいちゃいけない。



あの日から決めたことだった。







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