第5話〜真実を知る君〜
映画なんて短かった。
恋愛系。
でも、彼女が自殺しちゃう。
そんな切ない話。
泣かなかった。
でも、総代はなんでこの映画が見たかったのか予想が出来ない。
「あ〜おもしろかった!」
泣き腫らした目をして映画館を出る。
「随分泣いたわね。」
一粒も涙を落とさないまま平然とした口調でハンカチを差し出す。
「まぁ、純愛ってすばらしいって事だよ!」
ハンカチを受け取って涙を拭いた後、
「洗って返す」
といってポケットにしまわれた。
「なんで自殺なんか・・・。」
ボソッとつぶやく。
総代には聞こえていないだろう。
「ねぇ総代?」
「なに?」
「私の家に来て。」
「はっ!?」
何を勘違いしたのか慌てて否定した。
「ちょっと無理だよ!女の部屋なんか行けない!」
「何言ってんの?パジャマ姿見たくせに。」
「それとこれとは話が別。」
「まぁ、誤解しないで。」
「へっ?」
「話を聞いてもらいたいだけ。」
「そう。わかった。なら、お邪魔させてもらう。」
躊躇なく電車に乗り自宅へ向かう。
時刻は8時30分。
そんなに長い映画ではなかった。
「さぁ入って。」
綺麗とはいえない部屋に彼を招きいれる。
告白とか、そういうことを話すわけではない。
「おじゃましま〜す。」
そっと静かに入って辺りを見られる。
「そこに適当に座って。紅茶でいい?」
「あっサンキュウ♪紅茶でいいよ。」
ギシッと椅子に座る音が聞こえる。
男子なんて招き入れたことない。
ただ、話さないといけないと思ったから。
総代だけには誤解されたくないと思ったから。
テーブルに2つのカップ。
温かく湯気がでてる。
「でっ?話って何?」
一口飲んで尋ねられた。
私は、答えないといけない。
「ずっと、言いたかったことがあるの。」
「なに?」
「誰か一人にでも話せれば楽になれる。私の過去のこと。」
彼の瞳を見つめた。
切なげで同情してるような顔。
私は、話を続けた。
「仲のいい友達が1人だけいたの。その子可愛くってスポーツもできて家庭的。みんなの注目の的だった。」
一口紅茶を飲む。
「そんな子と私仲良くなれたのは彼女のおかげなのよ。一人ぼっちだった私のに優しい手を差し伸べてきてくれた。中1のとき。でも、私は怖くって。人が怖くって彼女から逃げた。それでも手を差し伸べてくれて仲良くなっていった。」
「うん。」
やさしく返事をしてくれた。
「でも、クラスの子は妬んだ。私と、人気者の彼女が仲良しだなんて思いたくなかったのよ。」
「それで?」
「クラスの子は私をいじめ始めた。友美に気づかれないように。そっと行動し始めた。別に私は平気だった。いじめなんて慣れたものだから。でも、だんだんそれがエスカレートして私を殺そうとする子が出来た。」
紅茶はもう冷たい。
それでも全部飲み干す。
「でも、私みたいな人は死んでもいいって思ってたけど。彼女が、友美がその行為に気づき始めた。彼女は何度も聞いてきた。『いじめ受けてるんでしょ!苦しいんでしょ』って。でも私何も言わなかった。彼女に何かされるの怖かった。だから、言わなかった。その次の日当たりに手紙が来たわ。何時何分に屋上に来てくださいって。この時殺されると思った。だから、素直に時間通りに屋上に向かった。相手は、私に知り合う前の彼女の1番仲のよい子。私を心のそこから妬んでたみたい。バカな話よね。その子にも支えてくれる子は居たのに惑わされたみたい。彼女はナイフ持ってた。心臓を一突きにしたかったみたい。私は避けなかった。死ぬのが運命だと思っていたから。その時よ。友美が・・・彼女が私をかばった。」
蒼白とした顔でたんたんを喋る。
総代は聞いているだけ。
「それで・・・友美死んじゃった。私のせいだった。私が彼女に相談してればこうならなかったのに。で、彼女最後になんていったと思う?『好きだよ』って、『紗夜に会えてよかった』って。笑って言うの。自分が情けなかった。それでね。私を刺そうとした子。ノイローゼみたいになって自殺したわ。私を殺そうとしたのに好きな子を殺しちゃったんですもの。それから。私は2人も殺したことになって殺人者になった。中3のころだったかな。」
ポタポタと涙が流れ落ちる。
顔なんてもうぐしゃぐしゃ。
隠す気にもなれなかった。
「うん。よくわかった。紗夜は間違ったことはしてないと思う。」
「どうして!?私、2人も殺した!私が殺したのに!」
「それでも、紗夜は間違ってない。間違ってないんだよ。」
優しい微笑み。
余計涙が出た。
もうこのことを話すことはない。
彼に話せた分すっきりした。
重荷だったかな?
そう思いながらも泣く。
泣き続ける。
「私、これからどうすれば・・・?」
しゃっくりも入ってうまく話せなくなってきた。
「明るく笑ってみな。」
「無理だよ。」
「無理じゃない。紗夜はさームックスも顔も美人なのにもったいない。」
「はっ、恥ずかしいこと言わないでよ!」
「もっと言ってあげる。唇も潤ってて可愛い。」
「なっ!」
真っ赤になって顔を背けようとおもったとき、彼の手が顎に触れた。
くいっとこっちに向けられる。
「キスしていい?」
真顔で尋ねられる。
「駄目!」
顎に触れられた手を離そうと思ったとき、両手ももう片方の手で捕まれた。
「ひどっ!抵抗できないじゃん!」
「それが狙い。」
二カッと笑う君は小悪魔。
私はまぶたを閉じた。
唇に、彼の唇が重なる。
もう手慣れたもんだ。
そっと顎の手はいつの間にかなくなっていて変わりに彼の両手は私を抱きしめていた。
私も抱き返す。
キスをして抱きしめあって恋人同士見たい。
もう、気持ちを隠せそうになかった。
「それじゃ俺帰るね。」
「うん。バイバイ」
甘いキスの後はあっさりとした別れ。
彼は女好き。
私も遊ばれる子の一人。
だから、また、気持ちを隠した。
(本気になるな。本気になるな)
そう言い聞かせた。
総代は彼女の家を見つめながら自宅へ向かった。
彼女に触れてから女とあまり遊ばなくなった。
というか、遊べなくなった。
そんな今日も女からのメール。
『総代遊ぼうよ。キスして♪』
など。
それでも総代は断る。
『ごめん。今日は無理』
の一言。
すぐに返ってくる。
『最近そればっかりじゃん。さては、女が出来たんでしょう!』
最後にプンプンとあったがそれは無視。
『そんなんじゃねーよ』
『嘘。あの子でしょ!守本 紗夜』
『違うよ』
『じゃ、遊んで?』
『明後日ね。』
『約束だよ。バイバイ』
最後にはハートマーク。
こんなもんで、女は納まってきたはず。
ただ、紗夜はそうはいかなかった。
だから、興味が出来た。
「たっく。あそこまで可愛いなんて思わなかった。」
顔を赤らめて一言。
総代は少しずつ彼女に惹かれていった。
でも、本気になったことのない総代は不器用だ。
「恋愛なんてめんどくせーもんだ。」
空を見上げた。
雲はなかった。
綺麗なブルーが広がる。
空の上に浮かぶのは君の笑った表情。
唇に触れるときのさっきのまぶたを閉じた顔。
めっちゃ好みだった。
総代にも色が付き始めていた。
←BACK